【会員の広場『希望』】第109号2021(令和3)年度

2021.12.20


【会員の広場『希望』】
第109号2021(令和3)年度

発行:公益社団法人 広島市視覚障害者福祉協会
〒732-0052 広島市東区光町二丁目1番5号
広島市心身障害者福祉センター内
TEL 082-264-4966
FAX 082-567-4977
Eメール:Jimu@hiroshimashi.shisyokyo.jp

目次

1. 病み上がりの世の中で 立石敬一……………………2頁
2. 挑戦 森川能光…………………………………………7頁
3. 近くのスーパーに感謝 藤谷順子……………………9頁
4. 俳句・短歌 森下照彦 ………………………………12頁
5. 川柳 美野洋子 ………………………………………14頁
6. わたしと iPhone 米田かおり ……………………15頁
7. 小学校での講話はびっくり!ドッキリ! 
清水和行 ………18頁
8. 編集後記 ………………………………………………22頁


病み上がりの世の中で
立石 敬一
 巨大なターミナルの片隅から出発する夜行列車に一人乗り込み、現実から逃れるように旅に出る。きらびやかなネオンに見送られ、闇の底を突き進む。軽やかな車輪の響きと心地よい揺れはやがて夢の中に誘い込んでくれる。ふと気づけば外はぼんやりと明るくなっている。列車で迎える朝は格別なものであった。そんな光景を昨日の事のように思い出す。これが一人旅の醍醐味でもあったが、夜行列車も次々と姿を消し、ちょっとした異空間で過ごせる旅も出来なくなった。ならば他に楽しむ方法はないかと色々考えて、少しでも安く、そして早く現地に行って楽しもうではないかという思いから、高速バスも乗った。飛行機も利用した。まだ明るいうちからホテルに入りゆっくりと寛ぐ事もした。そんなスタイルも定着しつつあった2020年3月ぐらいから新型コロナウイルスは世界中を支配し、県外への旅行は元より、県内でも「とんでもない」という前代未聞の事態となった。行けないのであれば鉄道のブルーレイなどを見て楽しもう。という事については、昨年この紙面をお借りして書いた「行きたいのに行けないもどかしさ」である。
 あれから約1年。ワクチン接種も進み、僕も9月に2回接種した。感染者数も減少し、10月には緊急事態宣言も解除された。
パンデミックやクラスターなど、色々聞き慣れない横文字も耳にした。しかしワクチンを2回打ったにも関わらず感染してしまう「ブレイクスルー感染」の話も耳にしたが、世の中は徐々に動き出している様子。ワクチンを2回打った事で僕も体内の準備も整ったという事もあり、そろそろどこかへ……、と思い始めた。
その間にも鉄道界の情報は収集しており、かつて呉線の快速として走っていた「瀬戸内マリンビュー」は「エトセトラ」に名を変えて広島~尾道迄走っている。しかも広島~尾道は呉線経由、尾道~広島は山陽線経由という何とも興味深い列車だっだ。
しかし10月からは広島~尾道往復とも呉線になったとかで、少し残念な思いだった。往復呉線経由であれば、広島~尾道迄この列車で行き、山陽線で福山へ。その後は福塩線と芸備線を乗り継いで広島迄戻るという環状ルートは広島県から出る事もなく、ますます乗りたいという気持ちが強くなり足しげく広島から尾道迄の列車を当たってみたが全て満席。逆に尾道~広島迄の列車に空席があり、しかも窓の方を向いて座る席が空いており確保に成功した。ルートは福山迄ローズライナーで行き、山陽線で尾道。そこからエトセトラに乗ろうというもの。

【会員の広場『希望』】第109号 2/8

2021.12.20
第109号 2/8


 11月13日(晴れ)。1時半過ぎに尾道駅に到着し、尾道ラーメンを食した後、駅前のお土産屋で名物のレモンケーキを幾つか購入。糸崎行き普通列車が出発した直後に、2両編成のキハ40がゆっくりと入線した。ホームにいた人達は列車自体の入線を歓迎するように各々カメラを向ける。
今回用意されていた1号車2番D席に腰を下ろし、出発前の雰囲気を味わう。その窓の方を向いて座る席だが、パーテーションもしっかりと設置してあった。尾道14時38分発、広島17時35分着。所要時間2時間57分。停車駅は三原、忠海、竹原、安芸津、呉の5駅。列車種別である「快速」と文字づらをみる限りでは早そうだが、ご承知の通りこの列車は観光列車な為、乗る事を目的としており、所要時間もそれだけ要している。因みに同ルートを定期列車で辿った場合、呉で快速「安芸路ライナー」に乗り換えたと仮定した場合、所要時間は2時間半程度。
海、そして山、輝く太陽を左に右に見ながらゆっくりと走る。そんな窓から見える景色はまるで生き物のようにも見えた。小さなトンネルを幾つも潜りぬける毎に変わりゆくその様は、まるでスライドショーでもみているかのよう。その幾つかある小さなトンネルの一つ、川尻トンネルは日本一短いトンネルである。安登~安芸川尻の間にあり全長8.7m。これ迄は吾妻線の樽沢トンネル(7.2m)が最短だったが、八ッ場(やんば)ダムの建設により山側に数キロメートルのトンネルを掘り、線路はその中に移設された。その為このトンネルが日本一の短さに返り咲いた。
安芸阿賀を出ると今度は呉線で一番長い呉トンネル(2,582m)に突っ込む。車内灯は蛍光灯の真っ白な光とは違い、観光列車特有の豆電球。車内はその暖かい光に包み込まれ、レトロな雰囲気を醸し出していた。
16時37分、呉を出発。次の停車駅は広島。停車時間は僅かで順調な滑り出し。しかしかるが浜で16分の停車。その間に上下の快速に道を譲る。快速が快速に抜かれるとは……。三原~広間に比べると広~広島間は列車の本数も増えるのでエトセトラのような臨時列車は例え快速とはいえ定期列車の合間を縫って走る事になる。
並行する国道31号線を走る車のライトも目立ち始め、街並みの光も濃さを増す。短いトンネルを幾つか潜るが、その境目もはっきりとは分からなくなっていた。坂、矢野駅とドアの開閉はしないがすれ違いの為に停車。景色をつまみに食べたレモンケーキとコーヒーで満腹になり、心地良い暖房。そして程よい揺れについウトウトしているうち、山陽線と合流し海田市駅を通過。残された向洋と天神川は快速らしいスピードで通過。
広島駅に到着する旨の放送が入った瞬間、我に返った。広島駅は2番線到着。定刻通りである。かつてのように列車で迎える朝も格別だが、夕暮れもまた格別である。これは尾道発の列車で、しかもこの時期だから味わえるものであり、この尾道発の列車を選んで良かったと改めて思った。本来の観光列車ならグループで話に花が咲いたり、時には子供がはしゃいだり、また酒盛りで賑やかになったりというイメージだが、今回、徐々にコロナ前の生活に戻りつつあるとはいえ、満席にも関わらず静かな旅だった。病み上がりの世の中で行って来た今回の旅も存分に楽しむ事が出来た。
このエトセトラの名前の意味はラテン語で「沢山の、その他色々」という。また広島弁でも沢山のという意味は「えっと~~」といい、セトは瀬戸内海のせと。それももじってこのような名前が付けられたそうだ。この「その他色々」という捉え方は人によって違う。この後に及んでは、第6波は?3回目のワクチン接種は?また県外にはいつ頃になると行けるようになるんだろうか?など、その他色々な考えが浮かぶ。列車から降りた時から現実的な事を考えていた。
隣の1番線から、暮れなずむ街の光と影の中、
去りゆく快速「エトセトラ」を見送った。

【会員の広場『希望』】第109号 3/8

2021.12.20
第109号 3/8

挑戦
森川 能光
子供の頃スポーツは、することより観るのが好きで、走ることは苦手でした。二十数年前ブラインドテニスをはじめ、その頃からスポーツをすることも好きになりました。
テニスをするのに、少しでも体力をつけたい思いから、時々家の近所を走るようになりました。
18年前職場の同僚から「平和マラソンに一緒に出てみない」と誘われ、10キロマラソンを走りました。ゴール後10キロなら走れるんだぁ、と爽快な気持ちになりました。
それからは年に数回職場の同僚と10キロの市民マラソンに参加するようになりましたが、ただランニングの練習は、テニスやマラソンの大会前にする程度でした。
それでも最初の数年は、大会に出る度に自己記録を更新していましたが、それ以後はだんだんタイムが落ちていくばかりでした。
5年程前友人を通して、視覚障害者の伴走もされているMさんと出会いました。初対面で「ハーフマラソンや、フルマラソンに一緒に行きませんか」と誘われました。その時は20キロ以上走ること等全く想像できませんでしたが、いつかはフルマラソンに挑戦してみたい気持ちがあったので、2017年2月に初めてハーフマラソンの大会に参加しました。
その日は雨天でしたが、16キロまで順調に走っていました。ただ登り坂で失速、残り1キロには、足に痙攣がきたので、足を引きずりながらのゴールでした。長距離は、練習をしないと走れないと痛感しました。それからは休みの日や夜に伴走者と一緒に、以前よりランニング練習を増やし、ハーフマラソンの大会に年に何回か参加するようになりました。
そして2019年12月1日、那覇のフルマラソンに参加しました。タイムよりとにかく楽しんで完走を目標に走りました。那覇マラソンは、町中がお祭り騒ぎで、おまけに沿道の人が食べ物や、飲み物を配給してくれるので、ペースもゆっくり走っていたこともありますが、30キロ過ぎまでは、順調に走っていました。
しかし30キロを過ぎると、足全体に痙攣が来て、それからしばらくは足を引きずりながらのペースになりました。34キロ過ぎからは、体調も少し落ち着いてきたので、少しずつペースをあげ、37キロ過ぎに残り5キロと聞き、そこからは不思議と元気が出て、さらにペースを上げて42.195キロを完走しました。
ゴールの瞬間疲れより、本当にすがすがしい気持ちでいっぱいになりました。苦手だった走ることが、ちょっと好きになった瞬間でした。
昨年私は50歳になりました。体力は年々落ちて行きますが、色々な目標に向かって、これからも挑戦し続けていきたいと思います。

【会員の広場『希望』】第109号 4/8

2021.12.20
第109号 4/8



近くのスーパーに感謝
藤谷 順子
現在私が住んでいる家の近所には、徒歩5分圏内にJRの駅やバス停、ゆうちょ銀行、スーパーマーケット、ドラッグストアなどがあり、不便な事はなく快適に生活ができています。ここに住んで二十数年がいつの間にか経っています。
一人暮らしを始めた頃は、炊飯器でお米を1、2合毎日炊いて、ふりかけご飯や卵かけご飯をして食べたり、電子レンジにトースター機能があり、7分かけて食パン2枚を焼いて食べていたり、おかずは野菜炒め、目玉焼き、肉じゃが、カレーを作ったり、焼き豚を焼いたり、キャベツやレタスを手でちぎってツナを入れて、ドレッシングをかけて野菜サラダにしたり、うどんやラーメンなど簡単にできる料理を作っていた事を思い出しました。
月日が経ち、1年後には初めの意気込みはどこへ…。いつの間にかスーパーやコンビニのお弁当や、惣菜、冷凍食品、レトルト食品、カップ麺などを食べるようになって全然自炊しなくなっていました。
食事は近くのスーパーやコンビニがあるから、料理するのではなく、買って来て電子レンジで温めて食べていました。何も思わずスーパーにあるお惣菜を買って、ストレスもたまっていたのか、半額だと嬉しくて2人前ぐらい平気で買って、ぺろりと食べていました。便利だなぁと感じていました。
3年前に、病気がきっかけで「食べ物をバランス良くどう調理して食べるかが大切だな」と改めて考えさせられました。その後、毎日魚を焼いたり、煮物やサラダを作ったり、豆腐を食べたり、食べられる物を作って食べていました。
そして去年の年末に「近くのスーパーが改装で半年くらい閉店する」と聞いてびっくり。お米、卵、野菜、魚、肉など、どこで買おうかなと真剣に考えている間に、すぐ閉店になってしまいました。
まずは魚をどうやって食べようかと思い、インターネットで鯖の水煮缶詰が、なぜかタイミング良く安く売っていたので買いました。
個数を間違えたのか、今となってはわからないけど、2箱が一塊で送られてきました。1箱、24缶入なので、2箱で48缶送られてきました。数が多くても、半年間あれば食べるし、缶詰は重いから良かったと思いました。次に、野菜、肉はどうしようと思っていたが、帰り道に緑井のフジ、天満屋、川内のダイキ産直市で買うことに決めました。知らない店での買い物は、どこに何があるか分からないから、店内をうろうろ探しまわって時間がかかりました。欲しい物ではなく、他の物を買っていたことも、度々ありました。
季節は夏になり、「さてそろそろかな」と思い、口田南のスーパーの店員さんに聞いてみると「まだまだなんよ」と返事がありました。まあ改装だからと思っていたら、建物を壊している事が分かり、改装ではなく建て替えだから工事が長引くんだなと納得しました。
お米は、あきろまん4kgをダイキで買って、「筋トレだなぁ」と思い、ヘトヘトになりながら歩いて持って帰っていました。飲み物、炭酸飲料、牛乳、ヨーグルト、スイーツなどは、重たいので買いませんでした。
そして秋になり、近所のスーパーマーケットの前を何気に歩いていたら、垂れ幕が…「11月18日(木)開店」と書いてありました。垂れ幕を見てから待ち遠しくて、毎日わくわくしていました。
開店当日は仕事でしたが、夜に早速買い物に行きました。中に入るなり、広くて明るくて、快適だなと思いました。また新たに商品の位置を覚えるのが大変だけど、食べる物はだいたい決まっているので、大まかに覚えていけば良いなと思っています。最近は嬉しくて、毎日買い物に行くようになりました。
そんなこんなで、10ヶ月も買い物にすごく苦労したので、普通に欲しいものがいつでも買える事は、とても嬉しくて幸せです。ここに住めている事や、スーパーが本当に近くにある事で生活できている事に、感謝しています。

【会員の広場『希望』】第109号 5/8

2021.12.20
第109号 5/8


俳句                 
森下 照彦
紅花を 白き摘む指 血に染まり 
雷鳴に 覆う細き手 隙間から 
轟音(ごうおん)の 滝の向こうに 青峰かな 
梅雨明けて 小さな胸を 撫で下ろし 
梅雨入りて 被害無きにと 胸痛め 
蝉減りて 虫鳴く夜長 季節見る 
コオロギの 急ぐ鳴き声 秋の宵 
松虫を 今宵も耳に 膝枕 
暁に カラス家路に 染まり飛ぶ 
自然界 掃除機成るや 野分かな 
紅梅も 雪に包まれ 白梅に 
風花や 鼻に溶けたる 何処から 
雪かぶり 映える真紅の 寒椿 
達磨型 服着てだるま 雪ダルマ 
雪不足 農家困りし 田植えかな 

短歌              
                     森下 照彦

目覚まして 水冷たきを 顔に知り 季節変わりて 食欲の秋
朝目覚め 冷水顔に 気持ちよく 季節感じる 今日も張りけり
微風に 繊細な美を やや揺らし 鮮やか芙蓉 淑やかに咲く 
淑やかに 芙蓉咲きたる 通勤路 見送り招く 元気倍増  
名月に 供え物より 飲む酒を 鳴く虫友に 今宵楽しむ
蒜山に 放牧されし ホルスタイン 日差しを浴びて 健康な乳  
霜降りの 松坂牛は ビール飲み 俺は発泡酒で 乾杯する  


川柳                    
美野 洋子

掃除すみ 虎の置物 除夜の鐘
寅年に 入学祝う のし袋
初詣 おみくじ引いて 運だめし
初節句 成長を願う ひな飾り
宍道湖に 今年も来たよ 湖(こ)白鳥(はくちょう)
電車内 昔小説 今スマホ
避難勧告 命を守る お声かけ
デパ地下で 思わず呼ぶと 人違い
山のこだま ヤッホーと呼べば 繰り返す
薬でも 恋の病は 直せない
早く欲しい コロナの薬 待ち遠しい
妻の足 かばう夫は 古希の杖

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